「何でもいいよ」が増えてきたとき

── 相手を思ううちに、見えにくくなる自分の気持ち ──

「何でもいいよ」と、つい言ってしまう日

「夕飯、何がいい?」 そう聞かれて、「何でもいいよ」と答える。

「どこに行きたい?」と聞かれても、「合わせるよ」。

 仕事で意見を求められても、「お任せします」。

一日のなかで、こうした言葉を何度も口にしている方は、多いのではないでしょうか。

「何でもいいよ」は、やさしい言葉です。

相手の希望を立てて、その場の空気をやわらかく保つ。 

波風を立てず、みんなが過ごしやすいように気を配る。

それは、長いあいだ人を大切にしてきた人の自然なふるまいです。

 決して、悪いことではありません。

出てきたものを前にして、ふと感じる小さなズレ

ただ、こんな経験はないでしょうか。

「何でもいい」と言ったのに、出てきたものを見て、心のどこかで「あ、今日はこれじゃなかったな」と、ほんの少し思う。

口では合わせたはずなのに、なぜか満たされない感じがあとに残る。

誰かが決めてくれた予定に、文句はない。 

それでも、終わったあとに、どっと疲れていることがある。

その小さなズレは、わがままでも、贅沢でもありません。

口にするより先に相手を思ったけれど、自分の中には、ちゃんと「こっちがよかった」という感覚があった。 

ただ、それを確かめる前に、言葉のほうが先に出ていっただけなのです。

「何でもいい」のではなく、先に相手を考えている

本当に、何も望んでいないわけではありません。

「これが食べたい」と言えば、相手に手間をかけるかもしれない。 

「そこは気が進まない」と言えば、空気が重くなるかもしれない。

そう考えるより先に、体のほうが「何でもいいよ」と答えている。

長く誰かを優先してきた人ほど、この反応は速くなります。

自分の希望を確かめるよりも、相手の都合を読むほうが、もう自然な癖になっているのです。

それは、気が利く人の、やさしさの形でもあります。 

けれど同時に、自分の気持ちを置いたまま進んでいく入口にもなります。

自分に問いかける時間が、少しずつ短くなる

「何でもいいよ」が増えるとき、静かに減っているものがあります。

それは、「私は本当はどうしたい?」と、自分に聞く時間です。

一度立ち止まって、自分の気持ちを確かめる。 

その数秒を飛ばして、すぐに相手に合わせる。

これを毎日くり返していると、確かめる回路そのものが、だんだん動きにくくなります。

やがて、ひとりで自由な時間ができたときに、何がしたいのか自分でもわからない。 

好きなものを聞かれても、すぐには出てこない。

それは、望みが消えたのではありません。 

聞いてもらえないまま、奥のほうで静かになっているだけです。

奥で静かになっている気持ちに、少しずつ触れていく道のりは、こちらの記事でも綴っています。

答えは、大きなものでなくていい

自分の気持ちを取り戻す、と聞くと、何かはっきりした「やりたいこと」を見つけなければいけない気がします。

でも、そんな大きな答えでなくて大丈夫です。

今日は、温かいものが飲みたい。 

今は、少し静かにしていたい。 

あの店より、こっちの店のほうが、なんとなく好き。

そのくらいの、小さな「こっちがいい」で十分です。

はっきりした希望でなくていい。 

理由を説明できなくていい。

「なんとなく、こう」という感覚に気づけたら、それがもう、自分の気持ちに触れたということです。

「今の私は、何なら少しラク?」から始める

もし、自分の気持ちがわかりにくくなっていると感じたら。

いきなり「何がしたいか」を探さなくていいのです。 

代わりに、こう聞いてみてください。

「今の私は、何なら少しラク?」

たとえば、夕飯のメニューがどうしても浮かばない日でも、

「重たいものは、今日はちょっとしんどいな」

そのくらいなら、答えられることがあります。

「やりたいこと」より、「これは避けたい」のほうが、先に見つかることもあります。

そして、その小さな手がかりから、少しずつ自分の輪郭が戻ってきます。

ぼんやりしていた自分の輪郭が戻ってくる過程については、こちらでもお話ししています。

おわりに

「何でもいいよ」は、これからも言っていい言葉です。 

相手を思う気持ちは、あなたの大切な一部だからです。

ただ、それがあまりに増えていると気づいたとき。 

一日のどこかで、ほんの少しだけ、自分にも聞いてみてください。

「私は、何なら少しラク?」

きれいな答えが出なくても、いいのです。

聞こうとしたこと、それ自体が、置き去りにしていた自分に手を伸ばす、小さな一歩になります。

自分の気持ちを確かめる時間は、長く誰かに合わせてきた人ほど、うまく取れなくなっていることがあります。
ひとりで見ていくのが難しいときは、その時間を一緒につくることもできます。 

個別相談のページに、心が少し立ち止まれる場所を用意しています🌿 
必要なタイミングで、そっとのぞいてみてください☕️