心の守り方が、自分を苦しめるとき
前回、心を守るやり方には、いろいろな形があるという話をしました。
人と少し距離をとること。
忙しくして、考えないようにすること。
決まった習慣を大切にすること。
自分の領域に誰かが入りすぎないよう、境界線を引くこと。

どれも、そのときの自分を守るために必要だったものです。
けれど、心を守るために身につけてきたものは、いつも自分を助けてくれるとは限りません。
たとえば、相手は何の悪気もなく言った言葉なのに、なぜかひどく傷つく。
友達や同僚と一緒に笑っているのに、ふと寂しくなる。
誰かに頼ってもいいことなのに、「自分が何とかしないと」と強く思ってしまう。
そんなことがあります。
そのとき起きていることは、目の前の出来事だけではないのかもしれません。
以前にも似たような思いをしたこと。
ずっと言えずにいたこと。
感じないようにしてきた気持ち。
そうしたものに触れたとき、今の出来事以上に心が揺れることがあります。
気持ちを抱えておく心の器
心には、悲しさや不安、寂しさなどの気持ちを、いったん抱えておく器のようなものがあります。
ここでいう「器」は、どれだけたくさん我慢できるか、という量だけの話ではありません。
つらい気持ちが出てきたとき、それをすぐに外へ出さず、いったん自分の中で受け止めておけること。
揺れながらでも、自分の中で気持ちを扱っていけること。
そうした力を、ここでは「心の器」と考えてみます。

この器が弱っていると、普段なら受け止められることでも、思った以上に大きく心が揺れてしまいます。
たとえば、誰かから何気なく言われた一言。
その言葉だけを見れば、特別きついものではないかもしれません。
けれど、以前にも似たような言葉で傷ついた経験があったり、ずっと「ちゃんとしなければ」と自分を責めてきたりすると、その一言が思った以上に心に響いてしまうのです。
その場では何も言わずに過ごしていても、家に帰ってから涙が出る。
急に誰とも話したくなくなる。
小さなことなのに、いつまでも頭から離れない。
そんなふうに、気持ちが外へあふれてしまいます。
それは、今の出来事だけを見ていると、自分でも、なぜだか理由がわからないということになってしまいます。
「感じないようにする」ことも、守りの一つ
つらい気持ちが大きいとき、人はそれを感じないようにすることがあります。
人と距離をとる。
何も感じないふりをする。
忙しくして、考える時間をなくす。
そうしている間は、寂しさや不安を感じずに済みます。
たとえば、ひとりになると寂しいから、予定を次々に入れる。

家にいるといろいろ考えてしまうから、仕事や用事を詰め込む。
「疲れた」と感じる前に、次のことを始める。
そのときは、それで何とか過ごせます。
けれど、走り続けている間は気づかなかった疲れが、ふと立ち止まったときに出てきてしまう。
頑張っている間は元気にしていられたのに、ひと息ついた途端、どっと疲れて動けなくなる。
そんなふうに、気分を上げて過ごしていた反動で、何もしたくなくなってしまう。
これらも、つらさから自分を守ろうとする一つの形なのです。
これまでの守り方が、苦しくなることもある
大切なのは、こうした守り方を悪いものにしないことです。
人と距離をとることも、感じないようにすることも、忙しくして過ごすことも、そのときの自分には必要だったもの。
そのやり方があったから、つらい時期を過ごせたということもあります。
けれど、時間が経ち、状況や環境などが変わっても、同じ守り方を続けていると、
「本当は人とつながりたいのに、近づけない」
「休みたいのに、動き続けてしまう」
「誰かに頼りたいのに、自分で何とかしようとしてしまう」
そんな苦しさにつながることがあります。
以前は自分を助けてくれた守り方が、今の自分にはキツくなってしまう。
そんなこともあるのです。
その守りの奥に、何があるのか
人と距離をとりたくなったとき。
自分の気持ちが分からなくなってしまったとき。
「自分が何とかしなければ」と頑張り続けるとき。
その行動だけを見ると、「自分は人付き合いが苦手なんだ」「もっと強くならなければ」と、自分の性格の問題にしてしまうこともあります。
でも、その守りの奥には、別の気持ちが隠れていることがあります。

寂しかったのかもしれない。
不安だったのかもしれない。
傷つきたくなかったのかもしれない。
頼っても大丈夫だと思えなかったのかもしれない。
表に出ている行動だけではなく、その奥にある気持ちを見ると、自分のことが少し違って見えてきます。
すぐに変えなくてもいい
今まで心を守ってきたやり方を、急に変える必要はありません。
まずは、
「私は、どんなふうに自分を守ってきたんだろう」
と、振り返ってみる。
人と距離をとることで守ってきたのか。
感じないようにすることで守ってきたのか。
頑張り続けることで守ってきたのか。
そして、その守りの奥に、どんな気持ちがあったのか。
そうやって自分の心を見つめていくと、今まで「直さなければ」と思っていた行動にも、別の意味があることに気づいていけるのです。
守りをなくすことが、心を強くすることではありません。
まずは、今の自分がどんな守り方をしているのかを知ること。
そこから、少しずつ見えてくるものがあります。
次回は、心を守るやり方を無理に手放すのではなく、自分に合った守りを少しずつ育てていくことについて書いていきます。
自分を守るためにしてきたことが、苦しく感じる。
そんなときは、行動だけを変えようとせず、その背景にある気持ちや、これまでの自分の守り方に、丁寧に目を向けていく時間が助けになります。
一人では整理しにくい心のことも、一緒に見つめていくこともできます。
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