かさぶたを、無理に剥がさなくていい

前回まで、心を守ろうとすることは自然な働きであること、その守り方にはいろいろな形があること、そして、その守り方が、ときに自分を苦しめてしまうことがあるという話をしてきました。

最後に、その守りを無理に外すのではなく、自分を守る方法を少しずつ増やしていくことについて書きたいと思います。

傷にできる「かさぶた」を思い浮かべてみてください。

かさぶたは、傷口を守るために、そこにできています。

まだ傷が癒えていないのに無理に剥がせば、また血が出て痛みます。

だから、傷が治るまでかさぶたはそのままでいい。

心の守りにも、似たところがあります。

今、自分を守ってくれているものを、無理に取り払う必要はありません。

人と距離をとること、ひとりで過ごす時間を持つこと。

決まった生活のリズムを大切にすることや、自分の領域を守るために、境界線を引くことも。

その守りが、今の自分にとって心地よく働いているのなら、大切にしていいものです。

自分を守る方法は、一つでなくていい

ただ、心を守る方法が一つしかないと、その方法が苦しくなったときに自分を支えるものがなくなってしまいます。

たとえば、人と距離をとることでしか自分を守れない。

つらくなると、ひたすら忙しくする。

不安になると、全部自分で何とかしようとする。

それしか方法がないと、その守り方そのものが苦しくなったとき、身動きがとりにくくなります。

だから大切なのは、守りをなくすことではなく、自分を守る方法を少しずつ増やしていくこと。

人と少し距離をとる。

嫌なことには「嫌」と伝える。

安心できる人に、気持ちを話してみる。

ひとりで過ごす時間を持つ。

好きなものを身につける。

気持ちが張りつめたときには、別のことに目を向けて気分を変える。

どれか一つに決める必要はありません。

そのときの自分に合う守り方を、いくつか持っていていいのです。

暮らしの中にも、心を守るものがある

そして、もう一つ大切なのが、日々の暮らしの中にある「枠」です。

毎日だいたい同じ時間に起きて食事をする。

仕事と休む時間を分ける。

いつもの場所で、いつものことをする。

そうした変わらないリズムや、決まった生活の形が、心を支えてくれることがあります。

ベルギーの画家、ルネ・マグリットは、常識にとらわれない自由な絵を描き続けた人でした。

しかし、日々の暮らしの中では、毎日同じ時間に散歩に出かけ、身だしなみもきちんと整えるという、変わらない習慣を生涯崩さなかったそうです。

自由に、豊かに生きた人ほど、実は暮らしの中にしっかりとした枠組みを持っていることがあります。

何か特別なことをしなくても、毎日の暮らしに安心できる枠がある。

それが、心の器を支えることにもつながります。

外側の暮らしがある程度整っていると、その中で過ごすことで、心も落ち着きを取り戻しやすくなるのです。

だから、「いつもの生活パターン」は、単なる習慣ではありません。

自分が安心して過ごすための、大切な守りになっていることもあります。

もちろん、その枠を守ることが苦しくなっているなら、少し緩めてもいい。

大切なのは、決まりを守ることそのものより、その枠の中で自分が安心して暮らせているかどうかです。

守りを増やすことは、自分を知ることでもある

人と距離をとることが必要な日もあれば、誰かと話すことで楽になる日もある。

ひとりで静かに過ごしたい日もあれば、誰かと一緒にいたい日もある。

決まったリズムが自分を支えてくれるときもあれば、少し予定を変えてみたほうが楽になるときもあります。

だから、「私はいつもこうしなければならない」と、一つの守り方に自分を合わせなくてもいい。

そのときの自分に何が必要なのか。

どんな方法なら、安心して過ごせるのか。

そうやって、自分に合う守り方を少しずつ知っていく。

それも、自分を大切にすることの一つなのだと思います。

守りは、なくさなくていい

心を守ることは、弱さではありません。

人との距離をとることも、自分の時間を持つことも、生活のリズムを大切にすることも。

これからも、そのときどきの自分を守るために、必要なものは使っていけばいいのです。

かさぶたは、無理に剥がさなくていい。

傷ついた直後に人と距離を置くことも、疲れたときに感じないようにすることも、今の自分に必要な守りならそのままでいい。

傷が治れば、それは自然と要らなくなっていきます。

一方で、生活のリズムや、大切にしている境界線のようなものは、少し違うのかもしれません。

それは治ったら取れる守りではなく、骨組みのようにこれからもずっと自分を支え続けてくれるものです。

自分を守る方法は、一つでなくていい。

かさぶたのように、必要な間だけ守ってくれるものもあれば、骨組みのように、一生使っていいものもある。

そのときの自分に合うものを、これからも持っていていいのです。

自分を守る方法を増やしていくことも、自分の心を知っていくことの一つです。
一人では整理しにくい心を、誰かと一緒に見ていくことで、少しずつ見えてくることがあります。

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